vol.29 - お客様:林伸次さん(bar bossa)
「20代前半に僕を狂わせたブラジル音楽」
あけましておめでとうございます。
そして、いらっしゃいませ。bar bossaへようこそ。
旧年中は大変お世話になりました。
今年からは心機一転して、こちらのブログは毎月1回、1日に更新することになりました。
今後ともよろしくお願いいたします。
さて、今回は新春特別企画として、bar bossaの林伸次さんをお迎えして、
「俺がコンピCDを作るんだったらこうするね」という選曲をしていただきます。
質問林(以下QH)「いらっしゃいませ。お飲物はどうされますか?」
答林(以下AH)「何かピノ・ノワールをお願いします。」
QH「ピノ・ノワール、お好きなんですか?」
AH「あれ? この本、読んでないんですか?
『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか?』こちらに詳しく書いてありますので、是非読んでください。」
QH「最初から宣伝ですか。では早速ですが、林さんの小さい頃の音楽体験を教えてもらえますか?」
AH「小さい頃は情操教育的なクラシックのLPセットを聞かされていた覚えがあります。後、たぶんオルガンを習わされたような記憶も... 初めて買ったレコードは小学生の頃で、『さよなら銀河鉄道999』ですね。メーテルが好きだったので。」
QH「アニメのレコードが最初っていうのが出てくる最初の世代ですね。」
AH「その後の小学5、6年生の頃は中島みゆきにはまりました。オールナイトニッポンというラジオ番組があって、それの中島みゆきが大好きだったんです。」
QH「あの時代はみんなさだまさしとかかぐや姫とかフォークな感じでしたよね。」
AH「中学生の時は、佐野元春にはまりました。そしてそのままナイアガラ一派の音楽を一通り聞きました。僕は3歳上の兄がいて、兄はYMO世代なのでその周辺を聞いていましたが、僕はそんなにYMOにははまりませんでした。ちょっと難しいなあと感じていました。そして兄がXTCとかポリスとかT-REXとかを聞いていたので、その影響でイギリスものは聞いていましたね。」
QH「高校はどうでしょうか?」
AH「高校生になったらバンドを始めました。簡単そうなのでベースを買ったのですが、全く練習をしない性格なので全然上達しなくて、『おまえヴォーカルやれ』と言われて、ヴォーカルやってました。ジャンルはヘビメタ、ハードロックで、パンクバンドもやっていました。」
QH「意外ですね。」
AH「地方とか世代によって、『ヘビメタじゃなきゃダメ』とか『フュージョンがかっこいい世代』とかあるんですよね。で、僕が育った場所はヘビメタかパンクでした。で、僕もやっぱりロッキン・オンにはまりました。高校の後半はプリンスが大好きでした。」
QH「あの雑誌は日本中の若者の人生を狂わせてますね。」
AH「で、東京に来てプリンスからスライなんかを聞き始めたのですが、どうもJBがさっぱりわからなくて、黒人音楽にはまるのをあきらめました。19才の頃、高田馬場のディスキャットというCDLD屋さんでバイトしてて、そこの店主が元オパス・ワンの人で、SSWやクレプスキュールやボサノヴァなんかを教えてくれました。そして自分音楽史の中で決定的な『ベレーザ・トロピカル』というアルバムが発売されました。」
QH「デヴィッド・バーンが編集したブラジル音楽のコンピですよね。」
AH「そうです。それで人生が変わりました。そのコンピに収録されているアーティストのアルバムを全部聞きたくなって、都内のレコード屋を毎日のように回ったのですが、1989年当時は全くなくて、情報も何にもなくて、ひたすら『ブラジルだったら、とりあえず買ってみる』ということばかり繰り返しました。」
QH「もちろんインターネットもないし、まだガイドブックもなかったですよね。」
AH「はい。そして『ベレーザ・トロピカル』の第2弾で『サンバ集』というのが出たんです。それがもうショックで、何なんだこの豊かな世界はと感じて、その辺りから他の国の音楽を聞けなくなりました。23才の時にレコファンで働いていて、『何を歌っているのか知りたい。レコードを買うときの情報のためにライナーノートを読めるようになりたい』という理由だけで、ポルトガル語を習い始めました。そして後に妻になる女性が『私も今ブラジル音楽すごく好きだからポルトガル語習いたい』と言ってくれて、一緒に習い始めました。」
QH「なるほど。そしてその後、ブラジルレストランで働いて、バーテンダー修行をして、bar bossaを始めたんですね。」
AH「よく知ってますね。」
QH「では曲の方に移りましょうか。テーマは何ですか?」
AH「はい。テーマは『20代前半に僕を狂わせたブラジル音楽』です。」
QH「面白そうですね。では1曲目は?」
1.Gilberto Gil and Jorge Ben - Taj Mahal
AH「そのベレーザ・トロピカルを買って、1989年当時、比較的に入手しやすかったのがこのアルバムです。もうこのブラジル人にしか出せないグルーヴとファンクネスにおもいっきりやられました。今まで聞いてきた音楽は何だったんだろうって感じでした。」
QH「名盤中の名盤ですね。あるジャンルを掘っていく時、最初の方に出会うアルバムって重要ですよね。では次は?」
2.PAULINHO DA VIOLA - Sarau Para Radames
AH「ベレーザ・トロピカルのサンバ集にこの曲が入ってて、もちろん当時このオリジナルなんて日本では入手出来なくて、いーはとーぼのマスターにパウリーニョ・ダ・ヴィオラについて教えてもらったりして。後になると、なぜ彼がショーロというスタイルで『ハダメスのための夜会』という曲を作ったのか謎が解けてきて。ジョビンも見えて来て。ブラジル音楽って面白いって感じました。」
QH「お客さま、会話の内容がマニアック過ぎてそういうの困ります。で次は?」
3. Novos Baianos - A Menina Dança
AH「その頃、フランス盤でこのアルバムが突然復刻されたんです。当時は何の情報もなくてただ雰囲気があるジャケで『新しいバイーア人達』ってグループ名はわかったので、これだ!って思って買ったら大当たりでした。もちろんその後、ジョアンとの繋がりなんかがわかり始めて色んな謎が解けてきたのですが。」
QH「なるほど。スライとか好きだったのならこの辺りは好きそうですね。では次は?」
4. Vinícius de Moraes - Broto Maroto
AH「当時、ミディからエレンコの再発CDというのがたくさん発売されまして、もちろん出るたびに興奮して買っていきました。その中にヴィニシウスとカイーミとクワルテート・エン・シーとオスカル・カストロ・ネヴィスのズンズンでのライブ盤というのがあって、会話も全部翻訳されてて、一生懸命聞き取りの勉強をしました。」
QH「日本の再発CD文化の素晴らしい例ですよね。さて次は?」
5. Caetano Veloso e Gal Costa - Zabele
AH「これは当時、突然再発CDでアメリカ盤だったかな? 出たんですね。で、カエターノはもちろん全部集めようと思っていたからすぐさま買ったのですが、カエターノは当時はアートリンゼイとの関係で聞いてたので、カエターノの原点ってこれなの? どういうことなんだろう?ってすごく不思議で。もちろん後になって色々と謎が解けて。」
QH「そうですよね。当時はカエターノはすごく先鋭的な音楽をやる人ってイメージでしたからね。さて次は?」
6. Jorge Aragão - Malandro
AH「ブラジルレストランで働き始めたのですが、そこは毎日演奏があってお客さまとみんなで踊るというショーがあるところだったんですね。そこで『パゴージ』というジャンルにノックアウトされました。その中でもブラジル作曲家10本の指にも入るメロディ・メイカー、ジョルジ・アラガォンがすごく泣けるんですよ。」
QH「そういえば2年間ブラジルレストランで働いてたんですね。濃いですね。次は?」
7. Nilze Carvalho & Dona Ivone Lara - Acreditar
AH「そのブラジルレストランで歌っていたのがニルゼ・カルヴァーリョで、僕が『ブラジルに2ヶ月くらい行くよ』って言ったら、『じゃあ2ヶ月、うちで泊まりなよ』って言ってくれて、本当に2ヶ月間ニルゼの実家で寝泊りしました。僕と同い年ですごく良い子です。ブラジルに行ったらあまりにもニルゼが有名人でびっくりしました。」
QH「イヴォンニ・ララとの共演、涙モノですね... さて次は?」
8. Tamba Trio - Nuvens
AH「下北沢でバーテンダー修行をしている時、東北沢に『ラストチャンスレコード』という世界で一番素敵なレコード屋があったんですね。そこの江尻さんと無理やり仲良くなってもらって、色んなレコードを教えてもらいました。伊藤ゴローさんと知り合ったのもそこです。そしてルイス・エッサ。文句なしです。」
QH「あのレコード屋さんは夢みたいな場所でしたよね。クラシックの室内楽と品の良いジャズと映画音楽とボサノヴァのみの古い買い付けレコード屋さんでした。次は?」
9. Eduardo Gudin & Notícias Dum Brasil - Som Conquistador
AH「自分の耳だけで掘っていたのと、その後、ブラジル現地に行ってリアルな音楽に触れられたのと、そしてレコードコレクター達の耳を知った後に、このグヂンを知りました。これ、普通に聞いてもすごく良い楽曲なのですが、色んな謎が音楽の中に隠されていて、その謎解きが楽しいんですよね。」
QH「またワケのわかんないことを言ってますね。さて最後の曲ですが。」
10. Antonio Carlos Jobim - Águas De Março
AH「さっきのニルゼの家に行ったときに小学4年生の姪っ子と仲良くなったのですが、彼女が『私、三月の水、全部歌えるよ』って言って、この歌詞を全部歌ってくれたんです。あ、そんな歌なんだ。難しい歌詞だと思ってたけど、韻を踏んでて覚えやすいから誰でも歌えるんだと思って。」
QH「なんか思い出にひたってますが。そろそろ死ぬんですか? でも名曲ですよね。」
bar bossaの林伸次さん、今回はお忙しいところどうもありがとうございました。これからもお店、頑張ってくださいね。
2014年ですね。今年はあなたにとってどんな年になりそうですか? 良い年になると良いですね。それではまた来月もこちらでお待ちしております。
bar bossa 林 伸次
【バーのマスターはなぜネクタイをしているのか? 僕が渋谷でワインバーを続けられた理由】
・vol.1 ・vol.2 ・vol.3 ・vol.4 ・vol.5 ・vol.6 ・vol.7 ・vol.8 ・vol.9 ・vol.10 ・vol.11 ・vol.12
・vol.13 ・vol.14 ・vol.15 ・vol.16 ・vol.17 ・vol.18 ・vol.19 ・vol.20 ・vol.21 ・vol.22 ・vol.23
・vol.24 ・vol.25 ・vol.26 ・vol.27 ・vol.28
bar bossa information |
林 伸次 1969年徳島生まれ。 レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、 フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。 2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。 著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。 選曲CD、CDライナー執筆多数。 連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。 bar bossa ●東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル1F ●TEL/03-5458-4185 ●営業時間/月~土 12:00~15:00 lunch time 18:00~24:00 bar time ●定休日/日、祝 ●お店の情報はこちら |