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Monthly Disc Reviewの最近のブログ記事

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Monthly Disc Review2016.10.15:Monthly Disc Review

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Title : 『A LIFETIME TREASURE』
Artist : 中村恭士(Yasushi Nakamura)



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今月のレビューは1982年生まれのベーシスト、中村恭士のリーダーアルバム。中村恭士、というより"Yasushi Nakamura"という表記で目にしたことの方が多いかもしれない。東京で生まれ、小学校からシアトルで育ち、バークリー音楽大学、ジュリアード音楽院とジャズを学んだ彼の現在の活動拠点はアメリカ・ニューヨークだ。過去の作品では、日本でも人気のニュー・センチュリー・ジャズ・クインテット、J-Squadに加えて、Jon Irabagon『Behind the Sky』、Rudy Royston『303』でのプレイも素晴らしかった。

今作はClarence Penn(ds)、Lawrence Fields(pf)とのピアノトリオ作。Clarence Pennは90年代からJoshua Redman、Cyrus Chestnutなどのサイドマンから頭角をあらわし、小曽根真のアルバムにも多く参加しているベテランドラマー。Lawrence FieldsはJaleel ShawやWarren Wolfのサイドマンとして活躍する注目の若手ピアニストで、最近ではJoe LovanoとDave Douglasの双頭バンドやChristian Scottのバンドでも活躍している。


アルバム冒頭から、直球で力強いウォーキングベースにワクワクする。"Stablemates"では、緻密に仕掛けられたリズムの上で三者が同時にソロをとっているようなインタープレイをみせ、かと思えば中村がテーマをとるバラードの"But Beautiful"では繊細で丁寧な一面を見せたり、高速でスウィングする"Stella by Starlight"、8ビートの"Yasugaloo"など曲調は様々。どの曲でも気心の知れたメンバーならではの濃密な会話が繰り広げられ、メロディアスでチャレンジングなピアノと、手数の多いドラムという組み合わせが、ぐいぐいとバンドを引っ張る中村のベースを一層際立たせ、聴く度に新たな発見が生まれそうだ。ライブハウスの最前列のような録音も心地よく、最後に置かれたベースソロによる"The Nearness of You"では弦を擦る音や呼吸の音まで感じられるほど。


現代ジャズの高度なテクニック・アレンジの面白さと伝統的なスウィングの旨味の両方がバランス良く散りばめられ、アコースティックなピアノトリオのサウンドの中に真っ直ぐな意志を感じる。今年聴いたピアノトリオで一番のアルバムになりそうだ。


文:花木洸 HANAKI hikaru


中村恭士(Yasushi Nakamura)


【VOL.1; E4 - "Blue Monk" - Ben Williams + Yasushi Nakamura (Bass)】



【澤野工房】『A LIFETIME TREASURE/ヤスシ・ナカムラ』
http://www.jazz-sawano.com/products_448-4-1.html



Recommend Disc

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Title : 『A LIFETIME TREASURE』
Artist : 中村恭士(Yasushi Nakamura)
LABEL : 澤野工房 Atelier Sawano
NO : YN001
RELEASE : 2016.9.23

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
Yasushi Nakamura : bass
Lawrence Fields : piano
Clarence Penn : drums


【SONG LIST】
01. On My Way
02. Stablemates
03. A Lifetime Treasure
04. But Beautiful
05. Viva o Rio de Janeiro
06.Stella by Starlight
07. When Mr.Gut Says
08. Naima
09. Burden Hand (Bird in the Hand)
10. Language of Flowers
11. Yasugaloo
12. The Nearness of You


この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。


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■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック

アマゾン詳細ページへ


今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
音楽性迷子による迷子の為の音楽ブログ"maigo-music"管理人です。

花木 洸 Twitter
maigo-music

Monthly Disc Review2016.09.15:Monthly Disc Review

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Title : 『Childhood』
Artist : 渋谷毅 / 市野元彦 / 外山明



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ここ数年ライブを重ねてきた市野元彦(g)と渋谷毅(p)とのデュオに、ライブでも半ばレギュラーとも言えるゲストの外山明(ds)を迎えたトリオによる作品。もはやジャズだけではなくエレクトロニカやポストロックなど様々なジャンルから注目を集めるバンドrabbitooのギタリストと、日本が誇るベテランピアニスト・作編曲家による初録音作品は、彼らのライブがそうだったように、まるでリビングで行われている気楽なセッションを盗み見ているような、とても身近に感じられるけれど特別な空間を作り出している。


もとよりポール・モチアンやビル・フリーゼルの影響が色濃く、浮遊感たっぷりの市野のギターと、高い自由度の中にも常に美しさを湛える渋谷のピアノが、反応しあいながら空中で絡まりあって混ざっていく様は圧巻。市野のギターのいつもよりエフェクトを抑えたストレートな音色が紡いでいくラインの美しさを際立てている。 外山が作り出すビートは時に下地となり、装飾となってメロディを愛でるように丁寧になぞっていく二人の周りを自由に飛び回る。三者がそれぞれ自由に動いても楽曲の輪郭を損なわずにメロディやハーモニーが聴こえてくるのはライブをこなして来たこのメンバーだからこそだろう。


楽曲は市野のオリジナルが5曲にスティーヴ・スワロウの「Falling Grace」、リー・コニッツの「Subconscious-Lee」を加えた7曲。そのどれもがライブでも定番のラインナップで、市野のオリジナルのうち 「Childhood」、「Short Piece for a Day」は『Sketches』(2007年)に、「No Restrictions for Plasterer」、「Hiking」は『Time Flows (like water)』(2008年)に収められていた楽曲と、どれも長年連れ添ってきた楽曲だ。実際に僕も数年にわたってこのデュオのライブを目にしているけれど、楽曲は使い込んだ革製品のように回を重ねるごとに少しずつ形を変えて2人に馴染んでいき、その色は深みを増している。聴く側の僕たちも共に年月を重ねていくことで、この三人の音楽にまだまだ様々な表情を見つけられそうだ。これから先のライブが楽しみでしょうがない。


文:花木洸 HANAKI hikaru


渋谷毅
市野元彦
外山明


【「Folk Song」渋谷毅・市野元彦・外山明 】




Recommend Disc

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Title : 『Childhood』
Artist : 渋谷毅 / 市野元彦 / 外山明
LABEL : Carco
NO : CARCO4015
RELEASE : 2016.9.3

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【MEMBER】
渋谷毅 : Piano
市野元彦 : Guitar
外山明 : Drums


【SONG LIST】
1. Childhood (Ichino Motohiko)
2. No Restrictions for Plasterer (Ichino Motohiko)
3. Short Piece for a Day (Ichino Motohiko)
4. Falling Grace (Steve Swallow)
5. Subconscious-Lee (Lee Konitz)
6. Hiking (Ichino Motohiko)
7. Folk Song (Ichino Motohiko)


この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。


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■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック

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今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
音楽性迷子による迷子の為の音楽ブログ"maigo-music"管理人です。

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Monthly Disc Review2016.08.15:Monthly Disc Review

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Title : 『Melancholy of a Journey』
Artist : 佐藤浩一



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今月のディスクは佐藤浩一『Melancholy of a Journey』。rabbitooや橋爪亮督Group、土井徳浩Quartet、本田珠也トリオなどライブシーンではかなり頻繁に名前を目にするピアニストではあったけれど、本人名義の作品はこれで2枚目。前作から5年ぶりと久しぶりの作品だけれど、このアルバムの隅々までこだわり抜かれた 濃厚な音の説得力の源はそこにあると思う。

メンバーは土井徳浩(Clarinet, Bass Clarinet)、市野元彦(Guitar)、伊藤ハルトシ(Cello)、千葉広樹(Double Bass)、則武諒(Drums)とそれぞれが様々なフィールドで活動するミュージシャン達。ピアノ、ドラム、ベースにクラリネット、チェロ、ギターを加えたこの変則のセクステットを前提に書かれた12曲は、バラバラに聴いてしまうとそれぞれ驚くほど違った面を見せる。6人が徐々に折り重なってメロディを紡いでいく「Bird of Passage」 やクラリネットとピアノのデュオによる「Transience」にはクラシックや室内楽的なアンサンブルの美しさも感じられるし、ベースとピアノが作るミニマルな構造の上でクラリネットが踊る「tick-tack」や「morceau」、疾走する4ビートの上でフリーキーな会話をみせる「Reverse Run」には、即興の可能性を探るような現代的なジャズの要素を感じる。アルバムに4度登場する「The Railway Station」もそのパートによって違った表情を見せる。全ての曲が違う風景を描いているようにも、同じ風景の違う時間帯を描いているようにも感じられる不思議な統一感が、このアルバムの一番の魅力だと感じた。フリージャズ、現代音楽、室内楽まで様々な要素を一つのパッケージにまとめあげる佐藤の作曲とそれを具現化したメンバーの力には、日本のジャズシーンの最先端が、世界のシーンの最先端と確かに呼応している事を感じた。

その統一感に一役買っているのが、レコーディングとミックスにPete Rende、マスタリングにNate Woodという最近のジャズの中で一つの定番になりつつあるコンビによる制作だ。正直、このアルバムの音には驚いた。アコースティックの楽器にこだわって作られているけれど、曲ごとにマテリアルの細かな色彩は変化していくし、それでいて生の楽器の質感は丁寧に残されている。とても音楽的なミックスだと感じた。

どうしても僕たちは日々新しいアルバムを、次のアルバムをと待ち望んでしまうけれど、聴く度に表情の変わるこのアルバムは僕のプレイリストにずっと残ることになりそうだ。


文:花木洸 HANAKI hikaru


佐藤浩一 HP


【Koichi Sato - Melancholy of a Journey trailer】




Recommend Disc

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Title : 『Melancholy of a Journey』
Artist : 佐藤浩一
LABEL : SONG X JAZZ
NO : SONGX038
RELEASE : 2016.4.27

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【MEMBER】
佐藤浩一│Koichi Sato: Piano
土井徳浩│Tokuhiro Doi: Clarinet, Bass Clarinet
市野元彦│Motohiko Ichino: Guitar
伊藤ハルトシ│Harutoshi Ito: Cello
千葉広樹│Hiroki Chiba: Double Bass
則武諒│Ryo Noritake: Drums


【SONG LIST】
01. The Railway Station
02. Bird of Passage
03. tick-tuck
04. Reverse Run
05. morceau
06. The Railway Station 2
07. Transience
08. Sognsvann
09. The Railway Station 3
10. Voyager
11. ever after
12. The Railway Station 4


この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。


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■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック

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今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
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Monthly Disc Review2016.07.15:Monthly Disc Review

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Title : 『A Result Of The Colors』
Artist : Megumi Yonezawa Trio



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NYで活動するピアニスト、メグミ・ヨネザワのデビュー作。バークリーを卒業後、Jason Moranの推薦でGreg Osbyバンドのレギュラーピアニストをつとめた彼女は、2004年にGreg Osby『Public』(Blue Note)にサイドマンとして参加している。Greg Osbyのバンドと言えば、Edward SimonやJason Moranなど優れたピアニストを輩出してきたバンドだ。だからこのアルバムはまさに満を持して、待望のリーダー作と言える。

バックのメンバーはEric McPherson(ds)、John Herbert(b)というAndrew HillやFred Herschのバンドでも活動を共にする鉄板のコンビ。ほぼ全曲が彼女のコンポジションで、4ビートのジャズマナーに則った「Nor Dear Or Fear」から幾何学的なパズルのような「Children Of The Sun」、バラードの「A Letter From Stillness」まで幅広い楽曲が収められている。彼女のKeith JarrettやPaul Bleyに通じるようなメランコリックで空間的なピアノは、マーブリングや墨流しのように、じわりじわりと形や色を変えながら絶妙なバランスを持った危うい美しさがとても魅力的だ。なかでもスタンダードの「For Heaven's Sake」での、イントロのダークな雰囲気に繊細な一音を積み、曇り空に一筋ずつ光をさして行くように楽曲のカラーを変えていく様は圧巻。「Sketch」や「Epilogue」といった自由な構成の曲のなかでも、メンバーそれぞれの色を引き出しながら楽曲全体をコントロールし、スペースを自在に操るピアノが聴ける。

日本にまだあまり紹介されていないのが不思議なくらい、見逃すわけにはいかない才能だ。


文:花木洸 HANAKI hikaru


Megumi Yonezawa HP


【For Heaven's Sake】




Recommend Disc

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Title : 『A Result Of The Colors』
Artist : Megumi Yonezawa Trio
LABEL : FRESH SOUND NEW TALENT
NO : FSNT504
RELEASE : 2016.6.17

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【MEMBER】
Megumi Yonezawa(p)
John Herbert(b)
Eric McPherson(ds)

Recorded at Acoustic Recording, October 11, 2012


【SONG LIST】
1.A Result of the Colors
2.Children of the Sun
3.Untitled
4.Dr. Jekyll and Mr. Hyde
5.Sketch
6.For Heaven's Sake
7.Nor Dear or Fear
8.A Letter from Stillness
9.Epilogue


この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。


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■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック

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今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
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Monthly Disc Review2016.06.15:Monthly Disc Review

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Title : 『Grand Slam』
Artist : 森智大



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ここ数年間で、ドラマーが求められる能力の幅がぐんっと拡がった印象がある。それはヒップホップ的なビートであったり、変拍子であったり、あるいはラテンをはじめとする世界各地の音楽の要素であったりと、ジャズは様々なグルーヴを纏うようになってきた。そんな中にあっても(あるいはそんな状態だからこそ?)、日本のジャズ界では、優れた若手ドラマーがどんどん頭角を現している。石若駿、山田玲、木村紘、、、などなど都内のライブハウスでもしょっちゅう目にする20代のドラマー達は、日本の将来を担うどころか、すでにシーンを支える存在だ。


今回紹介するドラマーは森智大。彼もまた1992年生まれの20代。2011年に渡米しバークリー音楽大学で学んだ後、現在はニューヨークを中心に活動しているドラマーだ。昨年末にはクラウドファンディングで資金を集め、ニューヨークのミュージシャンを引き連れて来日ツアーも成功させている。


そんな彼のデビュー作となるアルバムが『Grand Slam』。メンバーにはNew Century Jazz QuintetやJose Jamesのバンドで活躍する大林武司(pf)、Christian ScottのバンドやButcher Brownとも共演するBraxton Cook(ts)、Tamir Shmerling(b)、Wayne Tucker(tp)などニューヨークの注目若手ミュージシャンが集まっている。いかにもにもサックスとトランペットの2管編成らしい楽曲の"Kick Ass"、"Grand Slam"。ピアノトリオで聞かせるミディアムテンポのスタンダード"When Sunny Gets Blue"、と"Blue Daniel"。バラードの"Be Back"。そして最後を飾る全力疾走の"A Piece Of Cake"まで、アルバムに通底するのはストレートなスウィングの追求だ。最近の若手の中では驚くほど真っ向勝負なストレートアヘッドの方向性だが、それ故にタイムレスな魅力がほとばしっている。9曲中6曲が彼のコンポジションだが、その中にも歴史へのリスペクトが感じられる。落ち着いたどっしりとしたドラミングは若手とは思えないほど自信満々で、そこに絡んでくるバンドのサウンドをより一層引き立てバンド全体がとてもフレッシュに聴こえる。テクニックや流行とは関係なく、こんなに素直にジャズの楽しさをぶつけてくるアルバムはなかなか無いと思う。ライブ映像を観たらアルバムよりもずっとアグレッシブだったので、是非動画を観て欲しい。そしてまた来日して欲しい。

このアルバムを一周したら、久しぶりにジャズの名盤をひっぱりだして一日スウィングに浸りたくなるような作品。


文:花木洸 HANAKI hikaru


Tomohiro Mori HP

auのCMで注目!NY在住のジャズドラマー。日本と世界をつなぎたい! - READYFOR
https://readyfor.jp/projects/tmoriondrums


【Grand Slam by Tomohiro Mori】



【Grand Slam - Live at Rockwood】




Recommend Disc

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Title : 『Grand Slam』
Artist : 森智大
LABEL : 自主制作
NO :
RELEASE : 2016.5.18

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【MEMBER】
Takeshi Ohbayashi 大林武司 piano
Tamir Shmerling タミール・シュマーリング bass
Tomohiro Mori 森智大 drums

Wayne Tucker ウェイン・タッカー [1,4,7] trumpet
Braxton Cook ブラクストン・クック [1,3,4,6,7] alto saxophone

【Credits】
Produced by Tomohiro Mori
Recorded at The Bunker Studio Brooklyn, NY
Recording engineer:Aaron Nevezie
Mix & Mastering Engineer: Jeremy Loucas
Recording Date:May 19th, 2015


【SONG LIST】
1. Kick Ass / Tomohiro Mori
2. When Sunny Gets Blue / Marvin Fischer, Jack Segal
3. The End of The Day / Tomohiro Mori
4. Grand Slam / Tomohiro Mori
5. Blue Daniel / Frank Rosolino
6. Man's Best Friend / Michael Wang
7. Don't Be So Serious / Tomohiro Mori
8. Be Back / Tomohiro Mori
9. A Piece of Cake / Tomohiro Mori


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■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック

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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
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Monthly Disc Review2016.05.15:Monthly Disc Review

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Title : 『the torch』
Artist : rabbitoo



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ギタリスト市野元彦を中心に気鋭のジャズマンによって結成されたバンド、rabbitooの2ndアルバム。日本だけでなくヨーロッパでもリリースされるなどシーンの話題作となった前作『national anthem of unknown country』から2年を経てrabbitooが辿り着いたサウンドは、より深く、ソリッドな音像だ。


アルバムは一曲目、単音のシンセサウンドから始まる。それは聴いている自分の足元がグラつくように変調していきそこにドラム、ベースが順に加わっていく。ビルドアップされたモノクロの世界観がギターがコードを鳴らしたところで、パッと開けるように色づいていく。音数が少なくなったことによって聴いているものの想像力を駆り立て、その予想を裏切っていくこの展開はある意味ですごく「ジャズ」を聴いているような気持ちがしてくる。


前作から一貫してrabbitooのサウンドとは、基本となる枠組みの上で各々がソロをとっていく所謂オーソドックスなジャズのスタイルではなく、ミニマルな繰り返しの中での音の抜き差しに寄って楽曲を展開させていき、そのビルドアップの要素の一つに即興があるというものだ。今作はその方向性を保ったまま個の演奏はより抑制的になり、その結果としてバンドサウンドがよりタイトにそしてぐっとソリッドになった。ギターやシンセの音色は様々だが、サックスの息遣いと乾いた生のドラムサウンドが音色の面でアルバムに芯を通すような存在であり、同時にこの音楽が生のバンドで、人力で作られている意味をすごく現している。

音響、ミニマル、ビートと即興演奏について示唆に富むこの一枚は、世界的にみてもジャズの最先端シーンの一角を担う作品だ。


文:花木洸 HANAKI hikaru


【rabbitoo - the torch Album Preview】




Recommend Disc

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Title : 『the torch』
Artist : rabbitoo
LABEL : SONG X JAZZ
NO : SONG X 036
RELEASE : 2016.3.23

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【MEMBER】
市野元彦 Motohiko Ichino : guitar, keyboards
藤原大輔 Daisuke Fujiwara : tenor saxophone, flute, synthesizer, electronics
佐藤浩一 Koichi Sato : rhodes, synthesizer, piano
千葉広樹 Hiroki Chiba : contrabass, electric bass, violin, electronics
田中徳崇 Noritaka Tanaka : drums


【SONG LIST】
01. バターランプの頂きにて 5:32
02. 火のこどもたち 6:13
03. MET-ROPE-OPLE 4:30
04. やがて星は泥の眠りから醒める 7:01
05. 影に満ちて梟は雪のように眠る 3:25
06. Nodding Robo Labo 4:49
07. 15 Arrows 3:10
08. 渦巻 6:24
09. pool 4:25
All songs produced and arranged by rabbitoo


この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。


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■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック

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今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

2015.04 ・2015.05 ・2015.06 ・2015.07 ・2015.08 ・2015.09 ・2015.10 ・2015.11 ・2015.12 ・2016.01 ・2016.02 ・2016.03 ・2016.04




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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
音楽性迷子による迷子の為の音楽ブログ"maigo-music"管理人です。

花木 洸 Twitter
maigo-music

Monthly Disc Review2016.04.15:Monthly Disc Review

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Title : 『FLOW』
Artist : 藤本一馬



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今月紹介するのはギタリスト藤本一馬の新作『FLOW』。


藤本一馬がポップユニットorange pekoeのギタリスト・作曲者としてシーンに現れたのは2002年。その頃から彼のミルトン・ナシメントをはじめとするブラジル音楽やアルゼンチン音楽やボサノヴァからの影響は聴き取ることが出来る。2011年から始まるソロ名義での作品達は、次第にチェンバーミュージックへと近づいていった。この春から活動拠点を一時ニューヨークへと移す彼が日本へ残したこの作品は、間違いなく彼の最高傑作だ。


ギターのアルペジオが響き、そこにクラリネット、ピアノ、ベースが加わっていく一曲目からアルバムの最後までを貫く、オーガニックな手法とで凛とした空気は彼独特のもの。どの曲もルバートに近いゆったりとしたテンポで、楽曲が持つ世界観に全員が奉仕していく。藤本のギターはもちろんのこと、前作をこの連載で紹介したピアニスト林正樹の左手とベーシスト西島徹の奇跡とも言えるコンビネーションには何度もハッとさせられる場面があった。


このアルバムもストレートなジャズのサウンドには分類されないかもしれないが、互いの音が反応し合いながらゆるやかに重なり、形を変えながら流れていく様は、アンサンブルを基調とする近年のジャズの動向に確かに重なるものがある。目立った楽器のソロがあったとしても、関係性はソリストと伴奏者とはならず、むしろアンサンブルの為のソロといったサウンド。この関係性こそがこの作品を現代のチェンバー・ミュージックたらしめる要素だと思う。それくらい作曲されたパーツとインプロヴァイズされたパーツが複雑に絡み合っているのに、とてもシンプルな耳ざわりに仕上がっているのは彼の底知れない作曲能力によるものだ。


今回の作品をリリースしているが「日本のECM」という声もちらほら聴こえてくる"Spiral Records"。音楽に沿ってパッケージングまで一貫されたデザインと、弦の擦れる音やプレイヤーの息遣いまで余すこと無く閉じ込めた録音が素晴らしいです。


文:花木洸 HANAKI hikaru


【藤本一馬 «FLOW» 】







Recommend Disc

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Title : 『FLOW』
Artist : 藤本一馬
LABEL : SPIRAL RECORDS
NO : SPIRA1109
RELEASE : 2016.3.30

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【MEMBER】
藤本一馬(g)
Silvia Iriondo (vo)
Joana Queiroz (cl)
林正樹 (p)
西嶋徹 (B)


【SONG LIST】
01. Polynya
02. Estrella del río
03. Flow
04. Resemblance
05. Still
06. Azure
07. Consequence
08. Dew
09. Snow Mountain
10. Surface
11. Prayer
*Music by Kazuma Fujimoto, except "Consequence" Music by Masaki Hayashi,"Estrella del río " Lyrics by Silvia Iriondo


この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。


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■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック

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今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
音楽性迷子による迷子の為の音楽ブログ"maigo-music"管理人です。

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Monthly Disc Review2016.04.01:Monthly Disc Review

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※平井さんのDisc Reviewは今月が最終回となります。


Title : 『CONTINUUM』
Artist : NIK BARTSCH'S MOBILE



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もう10年近く前に、"ここ数年で最もエキサイティングな発見"、というような表現で紹介されていたNIK BARTSCH'S RONINも随分と刺激的であったけれど、このNIK BARTSCH'S MOBILEもまた同様にかなりのもの。違いを言い表すとしたら、RONINが血を騒がす肉体的な刺激だとすると、MOBILEは精神の奥深くを揺るがす刺激と言ったら良いだろうか。とにかく一度耳にしたらリスナーを捉えて離さない麻薬的な作用を持った作品という点は、両者どちらにも共通するものだ。

現代音楽的な聞かれ方をする部分もあるけれども、クラシカルを背景に持つそれらとは、やはりその佇まいは明らかに異なり、現代という言葉がもつ同時代性よりも、もっと強く"今"を感じる。現代社会の息づかいが、複雑に絡み合うリズムと共鳴し、否応なしにリスナーは現実と幻想を往き来することになる。うすのろな現実と、甘美な幻想の間を。


音楽は、計らずも時代を反映する。MOBILEが奏でるものが、今という時代と呼応しているとしたら、僕らは危うさや脆さを孕んだ真っ只中に生まれ生きているという印象だ。それは、身の回りを見渡せば容易に感じ取れることではあるけれども、僕らはいつのまにか都合の良いように物事を湾曲する術を身につけてしまった。アンダーコントロールなことなど本当はどこにもないと知っている一方で、そういうことにしておかないと先へは進めないことも同じくらい知っている。先にあるものが常に進歩であるかは不透明だというのに。


音楽に何か役割のようなものがあるとしたら、愚かな時代を俯瞰する契機を与えてくれることもそのひとつだろう。MOBILEの音楽は、その役割を的確に果たしてくれる。
NIKが、そういうことを意図しているか否かに関わらず、音楽自らがその役をかって出ているように僕には聴こえる。


一年間、担当させていただいたこのコーナーは
今回で最終回となります。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
自由ヶ丘の店では、こちらで紹介させていただいたような音楽を日々選曲しています。

機会がありましたら是非、お立ち寄りください。
カフェでお待ちしております。

cafeイカニカ
平井康二


Nik Bärtsch's Mobile - Continuum




Recommend Disc

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Title : 『CONTINUUM』
Artist : NIK BARTSCH'S MOBILE
LABEL : ECM(ECM2464)
RELEASE : 2016.4.22

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
Nik Bärtsch (p,comp)
Sha (b-cl, contrabass clarinet)
Kaspar Rast (ds,per)
Nicolas Stocker (ds,tuned percussion)

EXTENDED:
Etienne Abelin (vln)
Ola Sendecki (vln)
David Schnee (viola)
Solme Hong (cello)
Ambrosius Huber (cello)


【SONG LIST】
01 Modul 29-14
02 Modul 12
03 Modul 18
04 Modul 5
05 Modul 60
06 Modul 4
07 Modul 44
08 Modul 8-11


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「Monthly Disc Review 平井康二」アーカイブ平井康二

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平井康二(cafeイカニカ)

1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、
音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、
音楽業界にて仕事をする。
2009年、cafeイカニカをオープン
おいしいごはんと良い音楽を提供するべく日々精進。


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cafeイカニカ

●住所/東京都世田谷区等々力6-40-7
●TEL/03-6411-6998
●営業時間/12:00~18:00(毎週水、木曜日定休)
お店の情報はこちら

Monthly Disc Review2016.03.15:Monthly Disc Review

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Title : 『A Time For A Change』
Artist : 荒武裕一郎



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東京を中心に活動する日本人ピアニスト荒武裕一郎の新作『A Time For A Change』。
メンバーは若手の注目ベーシスト三嶋大輝、そして日本ジャズ界の重鎮とも言えるであろう本田珠也とのトリオが軸となっている。荒武はこれまでにも定期的に作品を残してはいるが、トリオでの録音はデビュー作以来15年ぶりというから驚きだ。


一曲目、デイブ・ブルーベックの名曲から始まるのは紛れもないジャズ。三嶋の若手には珍しい骨太なベースラインと、本田のツボを押さえた熟達のドラムは相性よくスウィングしていく。その上で転がっていく荒武のピアノの端々には歴史と伝統への敬意がひしひしと伝わってくる。それは愛奏するスタンダードだけではなく、荒武のオリジナル曲や取り上げたアーティストのオリジナル曲にも表れている。ベテラン橋本信二(gt)を迎えた#5、本田竹広の楽曲を取り上げた#9、そのどれもが楽しさと喜びに溢れているのが印象的だ。しっとりとした後半から、大団円へと向かい、最後はピアノソロで締めるというある意味ベタな構成が心地よい。


新しい手法や音への追求はもちろんだが、荒武が自ら主宰する音楽イベント「Music make us one !! 」では、ジャズ界の若手からベテランまで取り上げ毎回面白い試みがなされている。歴史とその中での現在地を一番考えているのは荒武のようなプレイヤーかも知れない。


今回のアルバムのフライヤーには「日本ジャズ界で走り続けることに疲れ始めた1年前 ピアノをやめようと考えていた そんな思いから解放してくれたのが本田珠也と三島大輝の2人だった」と書かれている。荒武を導いた2人とともに、このアルバムは聴く人を真摯なジャズへ迷いなく導いてくれる一枚だ。


文:花木洸 HANAKI hikaru


【Dialogue in a Day of Spring】




Recommend Disc

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Title : 『A Time For A Change』
Artist : 荒武裕一郎
LABEL : Independent
NO : SDR6001
RELEASE : 2016.2.9

【diskunionでの購入はこちら】


【MEMBER】
荒武裕一朗 Yuichiro Aratake (piano)
三嶋大輝 Daiki Mishima (bass)
本田珠也 Tamaya Honda (drums)

Guest:
橋本信二 Shinji Hashimoto (guitar)
小泉P克人 Yoshihito P Koizumi (bass)

Recorded at Power House Studio, TOKYO 28, 29, 30 November, 2015


この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。


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■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック

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今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
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Monthly Disc Review2016.03.01:Monthly Disc Review

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Title : 『Warp』
Artist : Jon Balke



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多くの人が抱くECMのパブリックイメージがあるとしたら
おそらくそれを代表するうちのひとつであろう一枚。


まずは入口となるアルバムカヴァー。
奥へ奥へとどこまでも続いていそうな白樺の森。
北欧にしては珍しく薄日が差し、
白樺の葉の緑が心地よい。
しかしその森の奥へ実際足を踏み入れようとすると
何かがその往く手を拒んでいる。
少しの好奇心と少しの恐怖心が鬩ぎ合う。
そんな妄想を掻き立てる写真だ。
ここでは紹介出来ないが、バックカヴァーの写真も秀逸で、
コンテンポラリーなアート作品だ。
ちなみに写真もJon Balke自らが手がける。


収録されているのは、Jon Balkeによるpianoとsound images とある。
この時点ですでに、単なるソロピアノ作品ではないことに気付く。
ピアノ演奏の背後に、様々な景色を描きだす音像が重ねあわされる。
それは、時にはリズムを後押しする電子的な音であったり、
または日常の景色から切り取られたフィールドレコーディングであったり、
幻想的なヴォイスであったりと、
さり気なく加味されている程度の音像ではあるのだけれど、
その効果は絶大で表情豊かな作品へと昇華させている。
そのSoundscapesは、さまにECM的と多くの人が感じる仕上がり。
所謂エレクトロニカに生のピアノといった凡庸な風情に陥らないのは
ECMの重鎮たちのアイデアと技術の深みからくる差なのだろう。


スタッフクレジットによると、
ピアノの録音は、お馴染みOsloのRainbow StudioでJan Erik Kongshougが担い、
Sound imagesとField Recordingを含む最終MIXは、
LuganoでStefano Amerioが担当するといった、
現在のECMに欠かせない二大エンジニアの贅沢使い。
Jon Balkeに対してのEicherの計らいか。


北欧的なアートワークとミニマルなSoundscapesは、
入口としては入りやすいと感じるかもしれないけれども、
決して、開放的に外へ外へと僕らを誘うことはない。
やわらかな陽が差し、澄んだ緑の風が吹いている白樺の森は
自己の内に抱えた広大な世界への入口であるのだ。
一度は、その森へ足を踏み入れることをお勧めする。


文:平井康二





Recommend Disc

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Title : 『Warp』
Artist : Jon Balke
LABEL : ECM(ECM2444)
RELEASE : 2016.2.12

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【MEMBER】
Jon Balke(Piano, Keyboards)


【SONG LIST】
01 Heliolatry
02 This Is The Movie
03 Bucolic
04 On And On
05 Bolide
06 Amarinthine
07 Shibboleth
08 Mute
09 Slow Spin
10 Boodle
11 Dragoman
12 Kantor
13 Geminate
14 Telesthesia
15 Geminate var.
16 Heliolatry var.


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「Monthly Disc Review 平井康二」アーカイブ平井康二

2015.4.1 ・2015.5.1 ・2015.6.1 ・2015.7.1 ・2015.8.1 ・2015.9.1 ・2015.10.1 ・2015.11.1 ・2015.12.1 ・2016.1.1 ・2016.2.1




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平井康二(cafeイカニカ)

1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、
音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、
音楽業界にて仕事をする。
2009年、cafeイカニカをオープン
おいしいごはんと良い音楽を提供するべく日々精進。


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●住所/東京都世田谷区等々力6-40-7
●TEL/03-6411-6998
●営業時間/12:00~18:00(毎週水、木曜日定休)
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